ことばのスケッチ
「お母さん、いつも自分の布団を敷くの!」
「そうだよ」という母の背中を見ながら、私と早苗に冷たい視線を放った。そして、苛立ちの態度をわざと見せながら、大きな声で、
「どれ、私が布団を敷いてやる」と言ってくれた。
「いいんだよ、多少時間がかかって迷惑を掛けているけど、運動のために私から進んでやらせてもらっているんだから」という、母の言葉に哀れみを感じながら、労わるように母から布団を取り、敷きはじめた。
「よかったわね、お母さん」と、早苗が言う。
 朝になって、母を労わるように「お母さんは何にもしなくていいんだよ、私が布団を上げてやるから」と言って、押入れに布団を入れてくれた。帰りがけに、「お母さん、体に気をつけてね」と言ってくれたが、「私の家においで」とは言わなかった。布団の上げ下ろしは、非純粋に写る。
 純粋さを表に出せば角が立ち、愛想笑いを浮かべて非純粋さを表に出せば丸く見える。「人に嫌な感じを与えないわね」と、一般的にはこれを良しとするが、だがしかし、非純粋さで包み込こんだ純粋さが潜んでいる。この場においては、母の面倒を見たくないというのが、偽りのない純粋な気持ちなのである。家主も、早苗も母に対して純粋である。ただ母への接し方が違うだけである。周りの者には、家主と早苗が同じように写って見える。非純粋さが災いしているからである。
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