ことばのスケッチ
やがてその電車はホームに群がっていた人を吸込み発車した。ホームの人影が疎らになったが、彼の姿はそこにはなかった。十五分ぐらいして、次の電車が入ってきたが、そこにも彼の姿は無かった。まあ、何かの都合で、次の電車に乗れなかったのだろうと待っていた。そのうち、三十分が過ぎても彼の姿が現れない。まあまあ、何か事情があったのだろうと思案する。一時間経っても現れない。さすがの私も腹が立って、しようがない奴だと決意して、帰りかけようとしたときに、やっと現れた。白髪頭の私の姿が一目でわかったらしく、
「やあ、暫く」と言って、遠くの方から手を上げながらやってきた。
「あまり遅いので、帰ろうかと思ってたよ」
「久しぶりにご尊顔を拝し光栄に存じます」と、遅刻してきた面倒な言い訳もなく、それかと言って、遅刻してすまんでもない。いくら彼との間の親しい仲でも、無礼講の範囲がちと越えている。「ご尊顔を拝し」と言う彼の言い訳に、
「おお、生きていたのか」と、応える。
「食事は済ませたのか」
「はらぺこだよ」
「やあ、暫く」と言って、遠くの方から手を上げながらやってきた。
「あまり遅いので、帰ろうかと思ってたよ」
「久しぶりにご尊顔を拝し光栄に存じます」と、遅刻してきた面倒な言い訳もなく、それかと言って、遅刻してすまんでもない。いくら彼との間の親しい仲でも、無礼講の範囲がちと越えている。「ご尊顔を拝し」と言う彼の言い訳に、
「おお、生きていたのか」と、応える。
「食事は済ませたのか」
「はらぺこだよ」