苺祭的遊戯(ショートストーリー集)
「いつもの服じゃないのか」

耳慣れた低い声でそう言った。

「衣替だけど。
 あれ? 去年の夏もそうだったじゃない」

キョウは読みかけの本を閉じると、組んでいた長い脚を解いて立ち上がる。
顎を持ち上げて、キスを落とすのはもう、愛を確認しあう行為というよりは日常の挨拶の一部。

「……んっ」

って。
突然、ディープキスをはじめるのは反則なんですけどっ。

腕の中でもがく私のことを気に留める様子もなく、人の口の中を存分に味わっていく。
口を離した彼の紅い唇は、いやらしく濡れていた。

見慣れているはずなのに、そういう目で見られると、やっぱり心臓はどきりと跳ねる。

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