“俺様”大家の王国
……どうにも『わけあり』そうだった。
不動産屋も随分な言い草だとは思ったが、学生の身でありながら、
引っ越しが春ではなく秋だというのも、少し気になる。
だが、十郎にそんな事を言っている余裕は無かった。
女の子で、しかも若いのだ。
これは期待してもいいだろう。
いや待てよ。
これで期待しまくっておブスだったら、かなりショックだ……。
様々な思惑を巡らせているうちに、その日は来た。
「はじめまして。入居希望者の緒方奈央です」
ドアの向こうにいたのは、可愛い女の子だった。
いや、可愛い系というよりは、美人系だ。
癖の無い輪郭に、白い肌。
目はぱっちりと大きく、やや気が強そうに目じりが上がり気味だ。
緊張しているのか、表情は少し硬い。
「電話でお知らせした者ですが、あの……大家さんは……」
すこし低めの、透き通るような声。
「ああ……」
十郎は、胸の高鳴りを隠しながら、何とか笑顔を作った。
「僕がそうです」