“俺様”大家の王国
 


奈央は、弾けるような笑みを浮かべた。

心配が、一気に吹き飛んだようだった。
 
それからというもの、十郎は毎日が楽しみになった。
 
彼女が、夕飯を作りに部屋を訪ねてくるのが、嬉しくてたまらなかった。


理由を付けて、早々に合い鍵も渡してあるので、

しばしば外出している間に奈央が来て、料理を作っている事もあった。



――家に帰った時に、『おかえりなさい』と言ってくれる人がいるのは、なんていいものなんだろう。


実家の女中相手には、感じたことのない気持ちだった。

 

でも、奈緒はどんな時も毅然としていて、すこし近寄りがたい雰囲気もあった。


そして一向に、敬語を崩そうともしない。

今まで付き合ってきた女達は、すぐに思い上がって、大胆に甘えてきた。

そういうのを良いと思ってた時期もあったが、

結局は疲れるだけで、とことんまで不毛だった。

かといって、良家のお嬢さまなんて、まっぴらごめんだった。
< 483 / 534 >

この作品をシェア

pagetop