“俺様”大家の王国
奈央は、弾けるような笑みを浮かべた。
心配が、一気に吹き飛んだようだった。
それからというもの、十郎は毎日が楽しみになった。
彼女が、夕飯を作りに部屋を訪ねてくるのが、嬉しくてたまらなかった。
理由を付けて、早々に合い鍵も渡してあるので、
しばしば外出している間に奈央が来て、料理を作っている事もあった。
――家に帰った時に、『おかえりなさい』と言ってくれる人がいるのは、なんていいものなんだろう。
実家の女中相手には、感じたことのない気持ちだった。
でも、奈緒はどんな時も毅然としていて、すこし近寄りがたい雰囲気もあった。
そして一向に、敬語を崩そうともしない。
今まで付き合ってきた女達は、すぐに思い上がって、大胆に甘えてきた。
そういうのを良いと思ってた時期もあったが、
結局は疲れるだけで、とことんまで不毛だった。
かといって、良家のお嬢さまなんて、まっぴらごめんだった。