“俺様”大家の王国



要するに、『家庭料理の味』を知らなかったのだ。
 
何度か自分で料理に挑戦してみたりもしたが、包丁で指を切るのが怖くて、

キッチンバサミで野菜を切っているうちに、本来の目的を見失ってしまった。

料理にすらならなかった。
 

しかし、本やテレビで『家庭の味』や『おふくろの味』なるものが、存在する事は知っていた。


実際食べてみて、思った。

ほっとする味だった。

料理人の技術やプライドが作る、隙の無いおいしさとは違う。


奈央の作る料理は全体的に薄味気味だったが、全部食べるには丁度良い塩加減だった。

大体、食べて一口目に「おいしい」と思う料理ほど、途中から味がしつこくて嫌になってしまうものだ。


(料亭の料理とかって

『さあ食べろ。どうだ美味しいだろう?』

って感じだけど、これはそういうのじゃないな……)


「……どうですか。お口に合いますか?」

 
奈央が、ごく控えめに訊いてきた。

「おいしいです。とても……」

「よかった」



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