藤士


湯呑み茶碗から上がる湯気を、ぼんやりと見ていた。
白い湯気は、この家の空気が持つ陽だまりのような柔らかさのなかに、ゆっくりと溶けていく。

こうしてしみじみと見てみると、上へとのぼる白い湯気は、まるでひとつの生き物のように見えた。

そのとき

「…なにか、見つけたか」

と、目の前に座る人物から声をかけられ、はたと視線を前に戻す。

切れ長の目は怪訝そうに僕を見て、やがて斜め下へと視線を落とした。つづいて、浅く短いため息をつかれる。

「…お前は、昔から何を考えているかわからない」

不愉快だ、とその顔が告げていた。

僕は思わず声を漏らして笑いながら、なんでもないよ、と小さく手を振った。

「しかし珍しいな、お前がこうして訪ねてくるとは」

眉間に皺を寄せて首をかしげて―僕の古くからの友人であり、同じように作家を生業とする、生駒周平は言った。



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