母の心音(こころね)
「三日経った日やった。仕事のことで主人は朝早よう松坂へ行ったんや。今日は雨がどしゃ降りでな、朝やというのにどんよりと薄暗くてな、今日も独りで草刈に出たんや。そしたら、あちこちで虫が鳴いとるんや。名前は知らんけどな。薄暗い土手で鳴いとるんや。そりゃ悲しい泣き声に聞えてな」



雨の日は
草刈る野辺も薄暗く
虫の声さえ悲しげに聞ゆ



「次の日に、朝早よう表に出たんや。昨日の雨はすっかりあがってな、爽やかやった。山々は雨に清められたように緑が映えて、そりゃ綺麗や。そしてな川向こうの山を見たんや。真っ白な霧がかかっておってな、そりゃ、模様のように綺麗やった。太陽が昇るまでのほんの一時の景色やった。仕事に出る前のほんの一時のな」



山々の
緑に白き霧かかり
今一時の眺め惜しまる


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