母の心音(こころね)
「今日は九月九日や。主人と二人で山へ行ったんや。湯柄谷へな。この山は植林してもう三十年近くなるやろ。間引きしないとな他の木は大きく育たないんや。そりゃ切られる木は可哀想や。だけどな、間引きされた木は製材所に運ばれて、柱や板材になるんや。切り倒した木の皮を剥ぎ、枝を落として売れるように木造りするんや。切り倒した後にはぽっかりと孔があいてな、そこから青空が見えて太陽が差し込むんや。それで木が育つんや。大きな山にするには仕方のないことや、可哀想やけどな。だけどな、切り倒されてもちゃんと役に立つんや。世間でもそうや、役に立たん者は居らんのや。そんなことを思いながら一休みした時やった。急に蝉の声が聞こえてきた。暑い夏の盛りが過ぎて、後残り少ない日しかないんや。そう思うとな、残り少ない命を惜しむように聞えるんや。声を限りに鳴いて居るようにな」


秋の日に
短い命惜しむやに
声を限りに鳴く蝉の声


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