【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~
廊下から
庭へと続く階段下で、


希毬が、泣いていた。


うづくまり、

声を押し殺して…



私は、
驚愕した


と同時に、
ショックだった。



希毬は、
鳴咽しながらも、
必死に泣くのを
我慢している様だった。


― 泣けばいいのに…


― 泣いたっていいのに…



出会ってから、
ずっと笑っていた希毬。


未来の日本の話も、

微笑んで聞いていた。



でも…



希毬は、


戦争で、大切な人を亡くしたんだろう



希毬が言っていた、

"宗一郎さん"

"兵隊さんたち"



思い出す。



この人は、

そんな辛く哀しい想いを背負いながら

生きて…いるんだ…




私は

ショックでたまらなかった。



希毬は、

今、目の前で、

鳴咽を我慢して、

声を押し殺して


泣いている…



大声で泣きたかっただろう



どうして!

って、叫びたかっただろう



それでも


あなたは、


明日には、


今日みたいに



きっと 微笑む ……


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