【短編】しろ犬のしっぽ ~幾多の時間(トキ)を経て~

夢枕

「悠さんっ
おっはよ~う!」


元気の良い声に
びっくりして目を覚ます。

目を開けると、
元気いっぱいの笑顔の希毬が、
私の顔を覗き込んでいる。


私は、
差し込む朝日に
目を細める。


「悠さんっ
朝ですよっ起きてっ」


「は…い、
起きました…」


昨夜はなかなか寝付けなかった私は、
寝不足の眼を擦りながら、
朝日の眩しさに
まだまだ目が慣れず。


「悠さんっ寝起き悪~いっ、さては夜更かししたでしょ~。
眠れなかったの?

ほらっ
とても気持ちのいい朝だよー」


そう言いながら、
希毬は障子を開け放った。


入ってきた陽の光で、
希毬の顔がはっきりと見える。


― あ…
…やっぱりな… ―



希毬は、
目を真っ赤に腫らしていた。


そして、

今日も

眩しいくらいの笑顔で微笑む…



「ほらほら起きてっ」


「はい…
おはようございます」

希毬に促され、
私は、
まだはっきりと目覚めていない中、
ゆっくりと体を起こす。


「おはようございます。母がね、『迷い人さんは?』って、気にしてるの」


「…?
あぁ、僕のこと」


希毬は、
微笑みながら頷く。


「迷い人さん、か。
ウマイこと言うなぁ」

「そうね」


「あの、犬嫌いのおばさん?」


「そうそう」


希毬が、
ケタケタと笑う。


私は、
微笑みながらも
希毬の腫れた目を気にしながら、
徐に布団を畳む。


「母も待ってるから、
すぐに来てね。

今朝は、悠さんの好きなお味噌汁よ」


そう言って、
希毬は駆けていった。



いつもと変わらぬ

笑顔を見せて …

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