魔法の指先
しかし、実を言うと今回のこの衣装、結構気に入ってたりする。シフォン素材のワンピースで後ろは踝まで伸びているというのに、前は太股が見えるくらいまでがら空き。ワンピースというよりはパーティードレスみたいだ。裾にフリルがついてることによってセクシーさが全面に出されていないのがいい。

私は樫木さんにお礼を言って、メイクルームを出た。スタジオには数名のスタッフさんが残っているだけで、待っている筈のサラが残っていなかった。どうせ、私の楽屋で待っているんだろう。そう思い、私は足早に楽屋へと急いだが、そこに彼女はいなかった。

携帯に電話してみても呼び出し音が延々と続くだけ。一応メールもしてみたものの、返信メールが返ってくる様子もない。

嫌な予感がしてきた。

とりあえず、身近な人間、春に電話して聞いてみることにする。

《はい》
『春、私だけどサラ知らない?』
《………さぁ》

気の抜けた声が返ってきた。今の微妙な間が気になる。何か知ってるかもしれない。

『なんか、知ってるでしょ?』
《ん~、あぁ》
『何?』
《そのうち分かる。気にすんな?》

気にするな、と言われ気にならない人間がこの世に存在するのだろうか?私は見たことがない。

『…うん』

だが、どんなに問い詰めたところで彼は口を割らないだろう。そういう男なのだ。

私はそれ以上聞かず、電話を切った。

その後、私は予定通り買い物を済ませて帰宅した。───まさかサラの小さな企みが待ち受けていようとはこの時、思いもしなかった。



真っ暗になった部屋の電気をつけて私は買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。

『にしても遅いな、サラ』

8時を過ぎて9時になろうとしてもまだ彼女は帰って来なかった。段々心配になってきた。

もう1度電話しようと携帯を手にしたその時、

ピンポーン。

と、本日2度目のチャイムが鳴った。

『え……』

確認して驚いた。サラがいるのはいいが、隣になぜか義人さんがいる。

《心亜ー、開けて~》
『ぁ、うん』

なんかやけにテンションが高い。お酒でも飲んでいるのか、と一瞬疑ってしまった。しかしそんな様子は微塵もない。

私はオートロックの鍵を開けた。


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