pp―the piano players―
「例えばさ」
 圭太郎君はテーブルに湯飲み茶碗を置いて、応接間のピアノを開けた。わたしは体をそちらに向ける。

「何を見ているのかがはっきりしているのは、まだ良いんだ」
 と、子犬のワルツを弾いた。ソラドシソラドシソラドシ……繰り返す音と三拍子は、子犬が自分の尾を追いかけている様子だ、とされている。

「何を見て、何を聞いているのか。タイトルがある曲はタイトルを参考に出来るけど、世の中の曲は大抵、番号だけで済まされている」
 クラシックばかりの圭太郎君から見た「世の中」だ、と反論したくなった。
「作曲家が伝えたいことを汲んで、演奏で表現しないといけないんだ。それが『理解して分かり合う』だ」
 『一分間ワルツ』がフィナーレを迎える。圭太郎のくせに生意気だぞ、と加瀬さんがまた言った。

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