pp―the piano players―

「お茶を」
　頭とは、体とは裏腹に、心はここから離れたいと思っている。苦しい。
「圭太郎に？」
「三人分だよ」
　湯呑み茶碗を増やす。茶葉を急須に入れ、お湯を注ぐ。蓋をして蒸らす。

　酒井君は電話を掛けた。圭太郎君がここにいることを伝えている。
　三つの茶碗に、順番にお茶を入れていく。
「……ああ、そうだね。ここにいるよ、うん。待っているね。住所はメールする」
　もう一つ、茶碗が必要そうだ。

　テーブルにお茶を置いて、階段を登る。酒井君はソファでこれから来る人を待っているという。
　酒井君は優しい。優しすぎて、ときどきわたしは苦しくなる。さっき「嫉妬している」と言ったのに、わたしが一人で圭太郎君のところに行くのを止めない。

　三階の奥の部屋。厚い扉をノックをする。返事はない。ドアノブに手をかける。ドアが開く。
「圭太郎君」
　明かりの点いた部屋の中に声をかける。「お茶を入れたよ」