pp―the piano players―
また車が止まった。お湯が沸いてそちらを構っているうちに、今度は勝手口が開く。
「早紀」
「酒井君」
酒井君は家に上がると、真っ直ぐこちらに向かって来て、何か言う前にその両腕に抱き寄せられる。体を酒井君に委ねた。温かさが広がる一方で、身体の芯のほうにぎゅっと苦味を感じる。
「……圭太郎が来ているね」
三階の灯りは外からも見えるし、テーブルの上には緑茶が出ている。わたしは頷いて返事にする。
「酒井君、圭太郎君のことをそう呼んでいたっけ」
「そう呼べって言われて、もう慣れたよ」
酒井君は腕を解いた。笑顔が消えて、真剣な眼差しに変わる。
「ごめん」
何を謝られたのか、少し遅れて思い当たる。
「圭太郎のこと、黙っていて」
「教えてくれても良かったのに」
そうだね、と酒井君は小さく声にした。
「でも、言いたくなかったんだ。嫉妬しているから」
その声が耳に届かないうちに、わたしの体は再び酒井君に支配される。重ねられた唇から、酒井君の想いが溢れてくる。会いたかった、という言葉よりももっとその想いが伝わってくる。
わたしの頭は安心している。この温かいものに任せていれば良いと。
「早紀」
「酒井君」
酒井君は家に上がると、真っ直ぐこちらに向かって来て、何か言う前にその両腕に抱き寄せられる。体を酒井君に委ねた。温かさが広がる一方で、身体の芯のほうにぎゅっと苦味を感じる。
「……圭太郎が来ているね」
三階の灯りは外からも見えるし、テーブルの上には緑茶が出ている。わたしは頷いて返事にする。
「酒井君、圭太郎君のことをそう呼んでいたっけ」
「そう呼べって言われて、もう慣れたよ」
酒井君は腕を解いた。笑顔が消えて、真剣な眼差しに変わる。
「ごめん」
何を謝られたのか、少し遅れて思い当たる。
「圭太郎のこと、黙っていて」
「教えてくれても良かったのに」
そうだね、と酒井君は小さく声にした。
「でも、言いたくなかったんだ。嫉妬しているから」
その声が耳に届かないうちに、わたしの体は再び酒井君に支配される。重ねられた唇から、酒井君の想いが溢れてくる。会いたかった、という言葉よりももっとその想いが伝わってくる。
わたしの頭は安心している。この温かいものに任せていれば良いと。