pp―the piano players―
「わたしも、圭ちゃんの見送りに行きたい」
 と絵美ちゃんは宮間さんを見上げた。
 ちょうど病室からあの人も出てきて、宮間さんは「母さん、どうする?」と尋ねた。あの人は、頷いた。
「ザビーナさんを見送らないとね。美鈴の代わりに」
「おばあちゃんも行くんだね!」
 やったあ、と絵美ちゃんは天真爛漫に喜ぶ。病院の中では声が大きかったので、「静かにしなさい」と宮間さんが厳しく言い、絵美ちゃんは素直に謝った。宮間さんは、電話を掛ける。その先は絵美ちゃんのお母さんで、次いで宮間さんの職場に、それから絵美ちゃんの小学校に掛けた。「はい、時間がかかってしまうので、午後から行くと連絡していたのですが、はい、今日は休みます」と、絵美ちゃんにウインクをしながら。

「誰がどの車に乗っていく? レンタカーのワゴンは八人乗りだろう?」
 加瀬さんは、わたしたちを眺めて指を折る。
「俺の車に、圭太郎を乗せたいんだけど」

 先生の病室では、ザビーナさんの日本語のおしゃべりが止まらなくて、先生は終始にこにこしていたし、「ね、おばさま」とザビーナさんも先生もあの人に話を振るので、あの人も穏やかな表情でおしゃべりの仲間になっていた。
 圭太郎君は、そのおしゃべりの輪を突き破って、先生の前に進んだ。
「じゃあ、先生。行きます」
 先生は圭太郎君を見上げ、頷いた。圭太郎君の手を、右、左と取って、重ねて、先生はそこに額を乗せた。
「大丈夫よ。あなたの音楽が、そこからあふれ出てくるわ。あなたのことを、あなた以上に分かって、音楽はあなたの声になって叫んでくれる」
 ザビーナさんが、その姿を見て言う。先生が顔を上げると、先生の黒髪はさらさらと動いて、やはり綺麗だ。
 ここに来た人たちがみんな集まり、先生に声を掛けていく。ザビーナさんは先生をぎゅっと抱きしめ、先生も腕を回した。
「ヨシ、あなたがいるだけで立ち上がれる人がいるのを忘れないで」
 先生は何度も頷いて、ザビーナさんの背中に回した手で応えた。生きていてくれて良かった。また会いましょう、と。
「ヨシ・シラミネとザビーナ・ドゥメールのコンサートなんてどうかしら」
 ニーナさんが二人に声を掛ける。
「素敵なプランね。ニーナ、あなたが、あなたの会社の責任で開催してくれるのでしょうね? もうこの病院に、私のファンはたくさんいるのよ?」
 ザビーナさんは、いたずらっぽく笑う。
 ニーナさんも目を大きく開いて頷いた。
「まず圭太郎をきちんとデビューさせて実績を残して、企画を通すわ」
「その間に、ヨシは元気になって。たくさんピアノを弾いて、待っていて」
 先生はまた何度も頷いた。
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