pp―the piano players―
 三台の車が、連なって走っている。
 空港で慌てなくて良いように、時間にはかなり余裕があるのだけど。

 宮間さんの車には、宮間さんと絵美子ちゃん、あの人、それから、ザビーナさんが乗った。絵美子ちゃんがザビーナさんに興味津々だし、ザビーナさんはあの人と一緒にもっと先生のことを話したがった。
 加瀬さんが圭太郎君を車に乗せたのは、圭太郎君の様子を知りたかったからだ。ピアノの調子や、圭太郎君が使いたいピアノが手配できないときに、そのピアノをどこまでどう調整ができるか、など。圭太郎君は早くライスターさんのところに戻りたい、そこでピアノを弾くと言った。行方をくらますことをそこまで心配しなくて良いのだろうけれど、念のためにニーナさんが同乗している。
 ザビーナさん、圭太郎君、ニーナさんの荷物をワゴンからそれぞれの車に乗せて、このレンタカーはずいぶんと身軽になった。酒井君と私は、広い車の運転席と助手席に、二人で前を向いていた。
 空港の手前でレンタカーを返却し、それから酒井君の荷物を持って、空港へ向かうことになっている。時間にはかなり余裕があるのだけど、わたしは何をどう言ったら良いのか分からなくて、焦っている。

「さっきの、ニーナの案は良いかもね」
 酒井君は明るい声で言う。
「先生と、ザビーナさんの、コンサート?」
「そう。日本でやるなら、あの病院のロビーでも良いけど、大きくやるなら、そこに圭太郎も弾いてさ。ライスターの弟子のコンサートだ」
「落語の一門会みたいね」
 うまく会話できているだろうか。
 これまでのように、酒井君の横顔を覗くことができない。だってわたしは、これから酒井君に、ひどいことを言わなければいけない。

 この温かい人を、冷たく裏切る。
 何をどう言ったって、わたしは酒井君を裏切る。

「また、頭の中でぐるぐるしているの?」
 酒井君は、優しいため息交じりの声で言う。
「うん」
 交差点は青信号が続いていて、もう高速道路の入り口だ。入り口を通るために少しスピードを落とし、通り抜けて高速道路に入ると、酒井君はアクセルを強く踏んだ。追い越し車線に入り、宮間さんの車と、加瀬さんの車がサイドミラーは小さく映って、見えなくなった。
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