pp―the piano players―

solo 4

「レンタカーを返すから、先に行くんだろうな」
 車のラジオを付けた。昨日のチャネルで、クラシック音楽を流す番組が掛かる。
「って、みんなが僕たちのことを思ってくれると良いんだけど」
 ラジオは、若手の音楽家と音楽経験のあるタレントが進行をする番組で、「クラシック」を幅広く捉えて紹介している。ああ、今日はこれが放送される曜日だった。
「違うの?」
「違うね」
 そう気を紛らわそうとしている。
 自分で分かっている。
 僕は焦っている。

「では、どうして」
 アクセルを思いっきり踏んで、
「早紀を、このまま何処かに連れて行きたい。二人だけで、誰も知らないところに。仕事も何も、全部放り投げて」
 早紀は息を飲む。きっと眉を八の字にして困っている。 
「本当にそう思うけど、それはしない」
「そうだね、酒井君だからね」
 はっと思い当たる。
 自分のすべきことを投げ出して、取り乱し、感情をぶち撒ける。これは、昨晩の圭太郎だ。楽譜をばら撒いて、ピアノを乱雑に扱って。あるいは、五年前、圭太郎を送り出すことを決意し、そのために泣いて、泣いて、泣いて、僕の手を取った早紀。

 なぜ、圭太郎はあんなことをしていたのか。
 思うように弾けないから、だけではない。
 早紀が。

 悔しい。
 このまま、早紀に何も話させずに、僕たちはひたすらに高速道路を進み、どこまでも進んで行くしか、「今」を変えない方法が思いつかない。朝から早紀はずっと、僕に答えようとしているのに。
 答えを聞きたくない。
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