pp―the piano players―
「何しに来たんだよ」
 その言葉はわたしのこころを押し潰す。来るんじゃない、そう言われているんだ――

 無意識に視線が下がる。床板を一枚、二枚と数えていく。途中から板がはっきりとは見えなくなって、目を瞑った。

「そんな泣きべそかいた顔を見せに来たのか?」
 ふいに圭太郎君の声が近くなって、ぽん、とわたしの頭の上に楽譜が置かれた。
「ったく、来るなら来るって先に言っておけ」
 言葉が、柔らかい。

「手紙と電話の、しかも俺が勝手に電話切った後で会うなんて、びっくりするだろ」
 あ、照れてる。

 わたしが顔を上げようとすると、楽譜の重みが消えて、それから別の重みが頭を抑える。
「まあ、帰ってくるのに連絡なんて、よそよそしいか」
 そのまま、わたしの体は斜めに倒れる。頭に置かれた圭太郎君の手が、わたしを導く。

「おかえり」

 圭太郎君の、胸の中に。
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