pp―the piano players―
 酒井君は圭太郎君に与えられた席に座った。わたしの両隣は空席で、先ほどの先生の演奏会ほどではないが混雑してきた客席で、やや申し訳なく感じる。
「どっちにしろ指定席だからね」
「そうだけど……」
 後ろから酒井君は、耳打ちをするように話かける。酒井君の息が、ふっと耳に当たる。

「『愛の夢』か」
 わたしが開いていたパンフレットを覗き込んでいる。発表の順番は、六人中五人目。圭太郎君の名前の下に書かれた横文字。フランツ・リスト、愛の夢第三番。

「前から思ってたけど、吉岡圭太郎ってとってもキザだね」
「へ?」
 酒井君は笑いを噛み殺したような声で続ける。
「カッコつけてる」

 半分嫌味、残りは誉めてるんだよ。
 そう言うと酒井君の体は離れていき、客席が暗転した。
『本日は、』
 ご来場下さいましてありがとうございます。開演に先立ちまして、お客様にお願いがございます……。
 アナウンスは落ち着いた男性の声で、会場をゆったりと包み込んでいった。
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