時計塔の鬼
「さくら……。お前、なんで……?」
呆然として動くことができない俺に、さくらは笑って手を振った。
『ばいばい』
さくらが俺に見せたのは、俺が最期に見たあの笑顔と寸分違わない笑顔だった。
『シュウ。私、怖い』
目の前からさくらが消え、再び夕枝が現れた。
ガクガクと小刻みに震え、尋常じゃない。
唇は紫色に変色し、瞳は恐怖に歪んでいる。
「夕枝? どうしたんだ?」
『何かが追いかけて来るみたい。怖い、怖いよ』
言い知れぬ恐怖に体を震わせ、目を大きく見開いて、焦点を失い。その目を涙で満たし、唇をわななかせ、真っ直ぐの髪を手で乱して、夕枝はすがりついてくる。
「落ち着け。夕枝……夕枝、落ち着けって!!」
『シュウ……? ねぇ、私悪いことしたかなぁ? なんでなの?』
俺の声に一時動きを止めた夕枝だったが、またすぐに混乱が彼女を襲ったようだった。