時計塔の鬼


夕枝に危険が迫っているなら、全力で守りたい。

夕枝が悲しむなら、あの華奢な体を抱きすくめて慰めてやりたい。



意味がないなんて、言うなよ?



夕枝が無事で生きていてくれるなら……。

俺は魔界の魔王にも、冥界の冥王にも、地獄の閻魔大王にも命を差し出したって、構わないんだ。



だから、と願う。

夕枝。

無事でいてくれ。

元気で、笑っていてくれよ、と。

俺が命を賭けてもいいってほどに恋をしてるのは、お前の笑顔が好きだからなんだ。

夕枝が夕枝だからだ。

夕枝が夕枝である限り、俺は彼女を慕い続ける自信がある。



けれど……夕枝は、聡い。

俺のあの夢を勘付かれるわけにはいかない。

勘付けば、彼女は何かしら行動を起こしてしまうだろうから。

その行動が命取りになるかもしれない。

悪夢を見る頻度は、何かが起こる前触れを表しいてるのかもしれない。

確証はない。

けれど、俺の中のどこかが、警報を鳴らしているんだ。

俺が悪夢を黙っていることは、夕枝を悲しませるかもしれない。

なんで話してくれないのかと、怒るかもしれない。



でも、バレるわけにはいかないんだ。

隠さなければいけない。

気付かれないために。

夕枝を、少しでも危険から遠ざけるために。



だが、ああ。

俺のこの心配が杞憂で終わってくれることを、心から願わずにはいられない。



時計塔の風は、春から夏へと変わろうとしているはずなのに、ひどく冷たく俺のもとへと吹きつけられていた。

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