時計塔の鬼


夕枝がこの時計塔に昇って来ていなかったら。

夕枝がこの高校を受験し、受からなければ。

夕枝がこの地域にいなければ。

夕枝が、生まれて来てくれなかったら。



俺はいつまでも、この想いを知ることはなかったんだろう。

……恋を知ることはなかった。



泣いて、怒って、眠って、そして笑って……。

真剣な夕枝も、冗談で笑いあってる時の夕枝も、全部全部、夕枝だ。

俺が恋い焦がれてる夕枝なんだ。

俺は夕枝に体の芯から惚れちまってるんだろうな。

そう、思わずにはいられないほど、自分でも呆れてしまうほどの恋情が、確かに、俺の中に存在している。



あの夢が予知夢といわれるものなのかどうか。

その答えを、俺はいつか知ることになるだろう。

俺の隣りに……傍に、夕枝に居て欲しい。

ずっとずっと、永遠に。



だが、そう望むことは夕枝を危険にさらすことになるんじゃないか?

いくら打ち消しても、その自問はまとわりついて、離れない。

そんな時、ふっと、考えることを止めてしまいたくなる。

だが、そんなことをしても何の解決にもならない。



そうだよな?

……さくら。


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