シェイクとルシア~黒き銃を持つ二人~
 中央区の道が変わってないなら他地区の道は全く変わっていなかった。三年前に飛び出して一度も走ってない道だが、シェイクの車の運転には迷いはなかった。ましてや自分の実家へ帰る道だ。学校の行き帰りだけでも数百と繰り返していた。


 シェイクがエンジンを切った。夜明け前に出てきたはずなのにもう空は明るく太陽が顔を出していた。


「中央区のホテルから実家まででこんだけの時間がかかるんなら、歩いていた頃は夜明けに出なけりゃ遅刻するよ」


 シェイクが車を降りながら一人でぼやいた。自分がこの国で一生徒として暮らしていた頃をぼんやりと思い出していた。そしてすぐに浮かんでくる彼女の最期……。


 前の方で大きな物音がして、それがシェイクを現実に引き戻した。目の前では初老の女性がマットを叩いて埃を落としている。


 足が独りでにその女性に近づいている。それは自分でも不思議なことだった。


「母さん……。だよね?」


 自信なさげにシェイクは女性に尋ねた。女性は声のする方を向いてすぐに信じられないと言わん顔をする。朝日の逆光で顔は見えないが姿は今でも覚えている。


「シェイク……。あんたいつ帰ってたんだい?」


「昨日帰ってきた。でもまた旅に出るから。今日は……みんなどうしてるかなって思って……」


 シェイクのたどたどしい言葉はルシアがいればからかわれていただろう。母は残念そうに溜め息をついた。


「そう……。せっかく帰ってきたんだからゆっくりして行きなよ。ここはお前の家なんだからさ」


 シェイクを家に入れようとする母の力は異様に強かった。もう二度とここから逃げ出さないようにと言わんばかりに。


 家の中はまだ銃器点をやっているようだったが、しばらく手入れをしていない銃が埃と一緒に飾られている。
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