着信音。携帯を開く。

「もしもし、お父さんだ。無事か?」

「一応」

「そうか、今警察の人にかわる」

物音。

「桜山署の飯塚です。状況に変化はありませんか?」

「なんか部屋が狭くなりました。それ以外には特に」

「…?!…?…」

困惑している。無理もない。警察官はどうせ、まともには受け取るまい。私が恐怖のあまり混乱して、妄想を見ていると判断するだろう。

「いいですか?落ち着いてください。怖い気持ちはわかりますが、必ず助けますから、私の言う通りにしてください」

「はい」

やっぱり。

「その部屋に窓や扉はありませんか?」

「ないです」

「では、壁に耳を当ててみてください。なにが聞こえますか」

「別に何も」

もう全部私が調べてるのに。その後もいくつか、状況を説明させられた。自分が全裸であることなどを説明するのは、屈辱的であり、不愉快だった。

「わかりました。一旦切ります。落ち着いて、生き延びることを最優先して行動してください」

「分かりました」

電話は切れた。テンプレート通りというか、つまらない警官である。独創性のかけらもない。職務に忠実だが成績はあげられないタイプであろう。
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