「ねえ…今日で私たちお別れだとしたら、どう思う?」

「何言ってんだよ…そんなの、嫌だよ」

私だって好きでこんな話するわけじゃない。

「悪いけどさ。残りの電池も少ないし。真面目に考えてみて。今日でお別れだとしたら、私たちは今、何を話すべきなのかな」

「…そんなの、考えられねーよ。何言ってんだよ…」

「ちゃんと考えてよ。このまま電池が切れて、二度と話せなくなったら。かなり後味悪いでしょ。助かることを諦めたわけじゃないけど、一応きちんとしておきたいの。お別れの、ケジメを」

「…」

彼氏は泣いている。相変わらず優柔不断でノータリンな奴だ。とても優しいけど。

まあ確かに、突然恋人から「部屋に監禁された。潰されて死ぬ。今日でお別れ」と言われたら、普通は理解不能だろう。悲劇という枠を、超越している。

いわゆる娯楽の悲劇は、たいして悲劇ではない。フィールドが漫画であろうと舞台であろうと、全ての筋道がわかるではないか。真の悲劇とは、不可解で理不尽で唐突なものだ。

落ちてきた隕石に頭を貫かれて死。魚の骨がいい感じに喉に刺さり、夕食中に血をふいて、死。仲良く話してる時、何故か発作的に人を刺してみたくなった友に刺され、死。

無茶苦茶で、感情のやり場もない。論理を超えた世界から、圧倒的重量で訪れる死。これこそが真の悲劇。理解不能が究極の絶望。そんな悲劇に、私は彼氏を立ち会わせている。

私と彼氏のこの悲劇が、舞台で上演されることはない。それは禁忌であり、かつ不可能なことだから。真の悲劇ゆえに。
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