「…」

「…」

どのくらい沈黙が続いただろうか。ふと、彼氏が話し出した。

「あのさ…言われた通り、考えてみたけど…」

「うん」

「何を話すべきかなんて…わからない。全然わからないけど。今、俺…凄く悲しいよ。悲しいよ」

「…」

「初めてだよ、こんなに、悲しいのは…」

「うん…」

「もう会うことがないとしても。この悲しさを、俺は忘れないよ…。ずっと。こんなに、悲しいから…」

「…」

実に彼氏らしい言葉だ。永遠に愛してるとか、心はどこでも繋がっているだとか…そういう陳腐で無意味な台詞でなくて、よかった。

そんな、正直で、飾らない、あなたが好きだよ。とても好きだよ。

「私も」

「え?」

「私も悲しいよ。そして、あなたのこと忘れない。好きだよ」

「…」

「助かったら、また会おうね」

「…」

「そして、海に行こう。あと、遊園地にも行こう。もう一度水族館にも行こうね」

「…ああ。行こう。何度でも、行こうよ」

電話先では、彼氏は力一杯うなずいているのだろう。いつもみたいに。

「ありがとう。話せて、よかった」

「お、おい…」

「じゃあね、バイバイ」

電話を切る。

ツーッ、ツーッという音…。決別を告げる音が、私の耳に入る。彼氏も同じ音を聞いているだろう。

少し、泣いた。
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