携帯の電卓機能をいじってみる。携帯とは便利なものだ。近頃ではテレビや財布にもなるという。そのうちパソコンになり映画館になり、そして世界そのものとなるだろう。

三時間で約0.5メートル部屋が縮む。ということは。電卓で計算。一時間で約0.17メートル。一分に約3ミリ縮むことになる。

私は壁に手を当てる。一分に3ミリか…。小さいようで大きな圧力。壁を見つめても、近付いてくる実感はない。しかし確実に死は近付いている。

まだ時間はある。電池もある。携帯で何かをすべきだろうか?何をすべきなのか。友人、両親、恋人、誰かに連絡を取るか?

しかし何が変わるというのだ。返事なんか決まっている。

「頑張れ」
「負けるな」
「君ならできる」
「諦めるな」
「君が好き」

くだらない。状況は何も変わらない。私が助かるわけでもない。仮に誰かが、「君の代わりに俺が死にたい」と言ったとしても。それは不可能だ。愛してくれること、心配してくれること。それはもちろん嬉しい。ありがたい。だが、それは嬉しいだけで、決定的な意味はない。

結局は、他人だ…。どんなに心配したって、どんなに愛していたって…。私を助けることは、究極的にはできない。

死ぬ時は、人間は。絶対的に孤独なのだ。友人や家族や恋人に、連絡を取ったり、駄々をこねても無駄だ。ありがちな心配の言葉が聞けるだけ。諦めて、死ぬしかない。

人間は、死ぬ時に。初めて自分が、本当に一人ぼっちであることに…気付くのだ。
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