LOVE COCKTAIL
店の名前は「asia99」、アジアナイティナインと読む。東西線妙典駅から徒歩5分、千葉県市川市である。特別に良い所ではないが、ここは都内から30分ほどの土地で、マイホームを夢見るサラリーマンにも手が出せる場所なのである。

KENがここに店を開いたのは3年前になるだろうか。
独立したいという長年の夢のせいか、なんとなく勢いで始めてしまったように思える。

「はい、TAKEさんバーボンロックね。」
TAKEはタバコの煙を吐きがてら、「どおも。」と言ってグラスを受け取った。
彼は香りと味を確かめるようにグラスに口をつける。
そしてグラスを口から離し、顔を横へ少し傾けたまま2・3秒フリーズする。
「クウー」と、息と声の入り混じったうなり声でフリーズ終了である。
いつものお決まりのモーションである。
そしてKENへ話しかける。
「いやあ、参ったよー。この前結局さあ、入稿間に合わなくてさあ・・・」

KENは話を聞いているつもりだが、実際は頭に入らない。
彼の耳にハッキリと今聞こえているのは、一定の高音で聞こえる雨音だ。

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