ウソ★スキ
その声を聞いた途端、何故か無性にこの場から逃げ出したい気持ちになった。

あたしは気持ちを落ち着かせようと、手元のコーヒーカップに視線を落として、それを両手でぎゅっと握りしめた。

落ち着け、あたし……。


「それと、表のプレートが準備中のままになってたよ。旦那さん、営業する気あるの?」


笑いながらあたしのすぐ隣に立って、カウンター越しに旦那さんにスーパーの袋を手渡すソラ。

「え……っと」

ソラがあたしを見た気がして、あたしは恐る恐る顔をソラの方へ向けた。




あたしのすぐ横に立っていたのは、紛れもないソラだった。


ちょっと大人っぽくなった? 

少し痩せた?

ソラの肩って、こんなに小さかったかな?

もともとそんなに大きな方じゃなかったけれど、またひとまわり小さくなったような気がした。


「……いらっしゃいませ」


旦那さんとあたしを何度か見比べたソラは、そう言って、優しい笑顔であたしを見つめた。


……その笑顔、全然変わってないね。


あたしはこの顔をよく知っている。

ソラお得意の、あまり知らない人によく見せる顔。

柔和なのに、決して必要以上に人を近づけようとしない、他人行儀な営業スマイルだ──。


『俺って、外面はいいから』
ソラはよくそう言っていた。



ソラはそんな『作り笑い』で、あたしにこう言った。



「旦那さんの知り合い? はじめて会うお客さんですよね?」







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