図書館で会いましょう
「こちらです。」
ウェイターは窓際の席のイスを引いた。由美は促されそのイスに座る。その席はきれいな庭が見える席だった。
「良い席ですね。」
由美は思わず口にした。ウェイターはさっきと同じように微笑み、
「ありがとうございます。当店で一番の席ですよ。」
と言う。ラッキーだなと由美は庭を見ながら思った。
「お料理はお連れ様が来てからでよろしいでしょうか?」
「はい。」
「何かお飲み物をお持ちしましょうか?」
「そうですね…すぐに来ると思いますので、今はいいです。」
「かしこまりました。それではごゆっくり。」
「ありがとうございます。」
ウェイターは静かに席から離れていった。由美はそれを見届けて再び庭を見ていた。店内のクラシックが今いる空間を日常とは違う別世界を思わせる。
『誠司らしくないなぁ…』
そんな雰囲気でもそんなことを考えてしまう。
「あっ。」
外は雨が降り始めていた。
30分ぐらいが過ぎた。誠司はまだ来ない。
「遅いなぁ…どうしたんだろ。」
由美は腕時計を見ながら呟いた。道に迷ったのだろうかと思い携帯にかけてみた。
『お客様のおかけになった…』
携帯からは機械的なアナウンスが流れてくる。
「地下鉄でも乗ってるのかな?」
由美は後で気付けるようにメールを送っておいた。
それからまた30分ほどが過ぎた。
「お越しになりませんね…」
ウェイターが心配そうな顔で声をかけてくる。
「すいません…」
由美は申し訳なさそうに頭を下げた。
「結構ですよ。」
ウェイターは由美を安心させるように微笑みかけた。
「こちらサービスです。」
由美の前にコーヒーを出す。
「すいません。ありがとうございます。」
由美はカップを手に取り一口飲んだ。
「ふぅ…」
カップを置きため息を一つつく。外の雨はさっきより少し強くなったようだ。
『誠司…どうしたんだろ…』
雨の音が由美の心に響く。誠司に何かあったのか。そう考えては『誠司のことだから』と自分に言い聞かせるように反論していた。
時計の針は8時半を回った。カップの中のコーヒーはすっかり冷めている。
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