図書館で会いましょう
木漏れ日

休日

誠司の命日から一週間が過ぎた。今日は閉館日。由美は午前中に洗濯などの家事を済ませ、午後は散歩をしていた。今日の空は晴天で暑くもなく寒くもなく、心地好い風が吹いていた。
由美がこの町に来てからもうすぐ二ヶ月が経つ。今までの休みで一番良い天気じゃないかと感じていた。
「気持ちいいな…」
心地好い風に由美は思わず背筋を伸ばす。今日はまだあまり行ったことのない道を歩いてみよう。そんなことを考えていた。
この町は大通りから少しそれると古い昔ながらの通りがある。
「へぇ…」
引っ越してきた時にもらった町の観光案内を手に建物などの町並みを見て歩いていた。昭和の初期を思わせる木造の店舗なんかは歴史を仕事としている由美にとっては宝物のように見えた。
「昭和初期の研究もしようかな…」
今までは江戸時代やそれ以前をテーマにしていたが、この町並みを見て近代にも興味を抱いた。職業病かなとも思ったが趣味と兼用と自分で自分を納得させていた。
路地をぐるぐる回ると建物と建物の間に森が見える。
「森…?」
由美は視界に入る木々を目標にてくてくと歩く。やがて路地を抜けると森のような公園に突き当たった。
「へぇ…」
この町は山も近く自然も多いと思っていたが、こんな森のような公園があったのが意外だった。
木々の間にある歩道をゆっくりと歩く。木漏れ日が心地好く感じる。木々のおかげか町の音はまったくと言っていいほど聞こえない。今までの町からまた別の世界に入ったように思える。由美は時間はあるからとゆっくりと歩道を歩いた。平日のせいか人も少ない。由美だけの世界を歩いている気分になる。やがて視界から木々が消える。変わりに目の前には大きな池が現れた。
「きれい…」
目の前の池は雲一つない青空と山々を写し出している。池には波もなく、まるで一枚の風景画を見ているようだった。
「こんな所があったんだ…」
由美は池の畔にあった古いベンチに腰掛け、しばらく目の前の風景を見ることにした。
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