ふたつの指輪
「そんな……無理だよ。

だって、あたしが思ってること言っちゃったら、ママはすごく傷つくよ」


「それはしょうがない。

もともと、おまえがかぶる必要のなかった、お母さん自体が何とかしなければいけなかった感情なんだから。


おまえに責任のないことは、すべてお母さんに戻すんだ。

お母さんがそれで傷ついたとしても、プラマイゼロだ。


おまえ自身の心の健康のために、それは言うべきだ。

洗いざらいな」


「……尊さん」


「すべてはき出すことができたら、きっと親の心の支配を抜け出せる。

おまえとお母さんの関係も、一歩前進するはずだ。


どう向きに前進するかはわからないけどな。

――それはお母さん次第だ。


でも、きっと――お互い一人の人間として、率直に話せて、尊重しあう関係になれるだろう」



「……」


「ただし、いいか、感情的になるなよ。

淡々と話すんだ。


あと、店を出てからすぐにタクシーに乗れ。

お母さんとは一緒に帰るな。

話した後も少し距離を置いたほうがいい」



(俺のところに戻って来い)


あたしにはそう聞こえた。



「……できるかな?あたしに」



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