a☆u★c〜全部請け負う部活動!!〜


ゴリラの檻は、午後だというのに込み合っていた。

母親が母乳を与えており、その胸元に、産毛のような薄い毛の生えた小さな頭が動いているのが見える。


「可愛い〜」

「……よく見えない…(~ヘ~;)」

麗は顔をヘニャンとさせながら檻を食い入るように見つめている。

その隣では、不満そうに口を尖らせた明衣が人混みを睨み付けていた。

身長が低く、小柄な明衣は麗よりも頭二分の一個分は目線が低い。

そのため、ゴリラの赤ちゃん姿どころか、母親ですら確認することが出来なかった。

もう良いかな、と諦め掛けた時だった。


「卯月さん」

「?」


声を掛けてきたのは楡だ。

明衣は思わず顔を上げた。


「……見えないんでしょ?場所取ったから、行きなよ」

「場所?」


楡の言っていることが判らなくて首を傾げれば、人込みの奥で恥ずかしいくらいに手を振る五月女が居た。

どうやら、人込みを掻き分けて来いとの事らしい。

いや、その必要は無くなった。


五月女が元気良くぶんぶんと手を振り始めたその時、人込みが嘘のように疎らになったのだ。

どうやら、五月女を見て周りの人々は完全に引いてしまったらしい。

悲しいような嬉しいような、複雑な気分に包まれながら、明衣は人の少なくなったゴリラの檻に近付いていった。





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