Magic Academy ~禁書に愛された少女~
「な、なに?」

慌てふためくそらに、アッシュは顔を俯けた。

「ごめんね?今まで黙ってて」

アッシュがしゅん、となる。そんな彼を見て、そらは首を横にふった。

「そりゃまぁ…驚いたけどさ。謝ることは無いんじゃない?別に、何かやましいことがあって、女の子の格好してたわけじゃないんでしょ?」

そらが聞くと、アッシュはこくんと頷いた。

「ここの学校はさ、制服の着用義務があるけど、男でも女でも、どっちの制服でもいいのよね」

アッシュがそう言うと、そらは驚いたように、そうなの?と聞き返した。

「うん。どっちでもいいんだ。ちゃんと制服を着ていればね」

はぁ、とアッシュはため息をついた。

「ホントは、いつか打ち明けなきゃって思ってたんだけどさ。でも、そんな機会が無くって」

アッシュは顔を上に向けた。

「今でも、あんまり私みたいなのって、歓迎されなかったりすることが多いから」

アッシュの言葉に、そらは俯いた。確かに、昔に比べて、今ではだいぶ理解してくれる人たちも増えた、とは言われているけれど、偏見を持った人たちが、いなくなったわけじゃない。

「カミングアウトするの、怖かったんだ。そらも、うみも、ドルイドも。いい奴だから…もし、嫌われたらどうしようって…」

アッシュの目から涙が零れ落ちる。そらは、ぽんぽん、と、アッシュの頭を撫でた。

「アッシュはアッシュでしょ?私は、アッシュが男でも女でも関係ないよ」

にっこり笑って告げると、アッシュは泣きながら抱きついてきた。

「そらぁ!私、私…!」

よしよし、と背中をさする。

「それにね?私なんて、魔法が使えることが当たり前のこの世の中で、使える魔法が皆無に等しいんだよ?小さいときから、よく、白い目でみられたり、いじめられたりしたもんだよ」

両親が無くなってしばらくの間、親類を頼ることになった時のことを思い出した。いく先々で、体裁が悪い、だとか、呪われた子だ、とか、いろんなことを好き勝手言われていた。近くにいたら、魔力がなくなる、なんて訳のわからないことを言われて、追い出されたこともあった。

「でも、そんな私と、アッシュは仲良くしてくれた。でしょ?」

そう。
最初は知らなかったとしても、今はもう、私が魔法をほとんど使えないことはアッシュ達に限らず、学校中の人間が知っていることだ。
だが、その事実を知っても、自分に対する態度が、彼らは全く変わらなかった。

そらが笑いながら言うと、アッシュはぎゅっと抱きしめる腕を強めた。
< 52 / 199 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop