禁じられた遊び
「これがホテル代な」

「克波様、お屋敷に帰られるのですか?」

私はブラウスのボタンを閉めながら、克波に質問した

「俺様はやることがあるからな
親父に東京支社を任されている
仕事をこなす時間が必要だ
だから先に帰る
今夜は小花のビーフシチューが食べたい」

克波がにやりと笑う

そう
克波は高校に通いながら、仕事もしている

世界的大企業家の一人息子

12歳のとき、アメリカですでに経済学の博士号を取得している克波だから

克波の父であり九条家の当主 九条 克海(くじょう かつみ)は安心して日本の支社を任せていた

「え? ビーフシチューですか?
そんな簡単には作れません
もう少しお時間をいただかないと…」

「なら何でも良いから、小花が夕食を作れ」

克波が背を向けて、歩きだした

ドアに向かって歩き出した克波は一度も、私に振り返らずに部屋を出て行った

広い背中が、ドアに遮断された

…わがまま

私は克波の残像に向かって、心の中で呟いた

私は克波のルームメイドであり、食事まで担当していない

今日も一流のコックたちに睨まれながら、キッチンを借りないといけないのだろうか

私は深いため息をつくと、着替える手をとめて克波からもらったお金を財布の中にしまった

これは大事なお金だ

高校卒業とともに、九条家を飛び出す

そして新しい生活をするんだ

誰も知らない土地で
九条家のルールなど忘れて、普通の生活をしたい

『普通の生活』
それが私のささやかな夢だった
< 8 / 200 >

この作品をシェア

pagetop