たんぽぽ
「ちょっと聞きたいことあんだけどさ、俺が休んでる間に今井、学校来た?」

『今井?クラス違うからわかんねぇけどたぶん来てないんじゃねぇかな。ここんとこ見てねぇもん。今日も見てねぇし…。お前ら何かあったのか?』

「まぁちょっとな…。もし今日、今井が来たら悪いんだけど教えてくんない?」

『わかった。お前、今日も来ないの?』

「うん…。明日は行くよ」

『卒業式くらいちゃんと来いよ』

「わかってる。じゃあ頼むよ」

 僕は電話を切った。

 その後、同じクラスの友達にも電話して聞いてみたが、やはり春華は来てないようだった。

 まだ来てないのか…。あのホワイトベアーとあのメッセージには気づいていないということだ。

 少し安心したが、すぐに違うことを考える。

 ということは、まだ家を出れないのか…。少しでも安心した自分を責めた。僕が春華をこんな目に合わしたんだ…。
 
 その日、英男からも別の友達からも春華が来たという電話は来なかった。

 明日は卒業式だ。春華は卒業式も来ないのだろうか…。とにかく、春華に会いたかった。いつになったら会えるんだろう。いつになったら僕は春華に謝ることができるんだろう。

 この日は一日中、同じことを考えていた。考えても何も変わることはないことはわかっていたが考えられずにはいられなかった。

 卒業式は昼からだった。

 僕は遅れないように準備してリボン館を出発した。

 駐輪所に着くと、友達もたくさんいた。久しぶり、と当たり障りのない会話をして、僕達は昼の臨時バスに乗り学校へ向かう。バスの中では運良く座ることができた。

 坂道の途中、桜が咲き始めているのが見える。四日前には、何もなかったのに…。まだ満開とは言えなかったがとてもきれいだった。

 七つ目のカーブを曲がり、開けた場所に来る。そこからの景色はいつもと変わらない僕の好きな景色だった。スーパーマーケットも小学生達も車も路面電車もいつもとかわらなかった。
< 35 / 70 >

この作品をシェア

pagetop