たんぽぽ
 学校に着き、教室まで行く。

 教室の中は賑やかだった。僕は自分の席に座ろうとして教室を進む。その途中で僕の動きが止まる。

 僕の視線の先には春華がいた。友達と僕のあの大好きな笑顔で話している。

 よかった、元気そうだ。僕は春華に近づこうとすると、春華が僕に気づく。

 次の瞬間、僕の足は止まった。

 僕と春華は確かに目が合ったはずなのに春華は僕から目線をそらし何もなかったかのように友達と話し始めたのだ。

 どういうことなのか僕には理解できなかった。僕はその場に立ち尽くし、春華をじっと見つめた。しかし、春華は二度と僕の方を見ることはなかった。

 なんで?僕は春華の横顔を見ながらそう思うことしかできなかった。

 担任の先生が入ってくる。みんな席に座り始める。仕方なく僕も席に座り、春華を斜め後ろから見た。

 春華はあのときと何も変わらなかった。あの日、またね、と別れたときから。僕の頭の混乱はまだ解けない。あれは完全に僕を避けていた。

 なんでだよ…。僕は心の中で叫ぶ。

 先生が一通り説明を終えるとみんな廊下に並びだした。僕も友達に連れられて廊下に並ぶ。廊下でも春華は僕の方を見ることはなかった。

 なんでだよ…。僕はもう一度心の中で叫ぶ。

 体育館に行き、在校生と保護者の拍手に迎えられながら入場する。形だけの卒業式が始まる。

 校長先生の挨拶も、PTA会長の挨拶も全く耳に入らない。僕は何も考えることができなかった。「仰げば尊し」も歌う気になどなれなかった。

 あっという間に卒業式は終わり、うるさいくらいの在校生と保護者の拍手で送られ退場した。

 教室に帰ると担任の先生が少し話をして解散した。

 ロッカーの荷物を全部持って帰れと言っていたので置きっぱなしにしてあった教科書類をかばんに詰め込む。

 さすがに春華はあのホワイトベアーとあのメッセージに気づいたはず。僕には春華からの電話を待つことしかできないと思った。
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