月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
しかしお客の言う事だし自分は男で相手は女。

警戒することもないだろうと、その言葉に従った。

「いま思えばそれが大きな間違いだったんですがね…」

公園は歩いて5分ほどのところだった。

そのままとりとめない話をしつつ公園内を歩き、あのブナの木のところまで来た時、吉原しのぶが不意に足をとめた。

「あたしね…」

しのぶはつぶやいた。

食事の時のワインのせいか、顔が少し上気していた。

「あたしね、もう何年も前から同じ夢を見ているの…」

しのぶはもともと色白で鼻筋の通った美人であった。

しかしこの時の彼女は今まで見せた事のない妖しい雰囲気を身にまとっていた。

「暗い闇の中、人気のない…そう、こんな公園で…」

しのぶはブナの木にそっと手をそえた。

「見ず知らずの男に喉を切り裂かれる夢を…」

ほほ笑む彼女の眼には、ぞくりとするような光が宿っていた。

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