月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
『ルノワール』を出た時にはもう夜の10時を回っていた。

しかし今夜はいろいろな話を頭に詰め込まれたような気がする。

これが仕事だから仕方ないけど。

あたしは多少は気晴しになるかと思って軽くアタマを叩いた。

「どうする達郎、まだ行くとこある?」

そう声をかけたものの、達郎は手にしていた何かを眺めたままで、あたしの話なんかこれっぽっちも聞いちゃいなかった。

「なに見てるの」

のぞきこんだそこには小山洋子の名刺。

そういや帰り際に渡されてたな。

渡されたというより、押しつけられた感じだったけど。

「レミにあげる」

達郎は名刺をあたしにさし出した。

「いらないわよっ」

ホステスの名刺をあたしに渡してどーする。

「オレだっていらないんだよ」

思い切り迷惑そうな顔をする達郎。

なんだか小山洋子が気の毒になってきた。

「せっかくなんだからもらっておきなさい」

あたしは諭すように言った。

< 47 / 94 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop