月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
「ところが吉原さんはあなたのプロポーズを拒否した」

他のパトロンより優越感を持っていた横倉にとって、それはあり得ないことだったに違いない。

自信家ゆえに大きなショックを受けたはずだ。

「それでもあなたは吉原さんと別れることができず、愛人関係を続けた」

横倉が吉原しのぶの魅力にどっぷりハマっていたのは、昨晩みずからが認めていたことだ。

「しかし最近になって吉原さんはホストクラブで東久志と知り合った。それをどうして知ったかはここでは詮索しませんがね」

金には余裕がある横倉のことだ。普段から興信所を使って吉原しのぶの身辺調査をしていたのかもしれない。

「あなたは吉原さんが東久志と付き合うことに恐れを感じた。なぜなら東久志はあなたよりも若く容姿も良かったからだ」

他のパトロンに対しては横倉は優越感を持てた。

しょせんは金だけの付き合いだと割り切れた。

しかし東久志に対してはそう思うことができなかった。

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