月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
あたしは吉原しのぶの部屋の本棚を思い出した。

確か江戸川乱歩の名前もあった気がする。

「乱歩に限らず、夢に魅せられる人間は多い。殺された吉原しのぶもその1人だったかもな」

彼女が死んだ今となっては確かめようがないことだけども。

達郎はそう付け加えた。

…。

なんか、事件は解決したけども、謎は残ってしまったような…。

でも達郎の言うように、こればっかりは確かめようがない。

うーん、でも…。

「さてと」

煩悶するあたしを無視して、達郎は席を立つ素振りをみせた。

「悪いレミ。今日はおごってもらえる?」

そう言ってあたしに伝票をさし出す。

「別にいいけど?」

横倉に襲われるとこ助けてもらった恩もある。

あたしは達郎から伝票を受け取った。

「珍しいわね。どうしたの?」

こういう場合、あたしらはたいてい割り勘だ。

達郎がおごってくれと言うなんて滅多にない。

「金欠でね」

達郎はバツが悪そうに言った。

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