イジワルな恋人


【奈緒SIDE】


「亮くんっていうの?」


お弁当を詰めていたおばあちゃんが聞いた。


「あ、うん」


ケータイをスカートのポケットに入れながら頷く。

そんなあたしを見ながら、おばあちゃんは少し困り顔で微笑みながら言う。


「……奈緒ちゃん。月曜日だけど……学校休んだ方がいいかもしれないね」

「……うん。でももう大丈夫じゃない?

噂ももうほとんどないし……」


あたしの言葉に、おばあちゃんは少し微笑んで、お弁当を詰める手を休めることなく話を続ける。


「うん……。でも一応念のため。

裁判も進んでるし、もしかしたらニュースで流れたりするかもしれないし……」

「……そうだね。じゃあそうするね」

「学校にはおばあちゃんから連絡入れておくから」

「うん。お願い」


おばあちゃんを振り返らないまま返事をする。


……振り返れなかった。

どうしても、作りなれたハズのいつもの笑顔が作れなくて。


思い出したくないのに、毎年毎年ニュースの中で流れる三年前の事件。


『家族三人が亡くなった、あのストーカー放火殺人から二年が経ちました。
川口秀樹容疑者の死刑判決が予想される中……』

去年のニュースが蘇る。






あたしは

その放火事件の唯一の生存者だった。





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