イジワルな恋人
【亮SIDE】
「……もうちょっと離れて」
「……は?」
走り出した車の中、奈緒の小さな声が聞こえて、俺は顔を近づけて聞き返す。
「もっと離れてってば!」
奈緒の言葉に、俺は黙って身体半分奈緒から離れた。
そして、さっきから感じていた事を口にする。
「……やっぱ男が怖いんだろ」
「え?」
びっくりした様子で俺を見る奈緒に、窓ガラスに視線を向けたまま答える。
「……さっき、手握った時、震えてたから。違うか?」
窓ガラスに映る奈緒の顔が、驚きから戸惑いに変わる。
奈緒はしばらく俺の方を見てから、反対の窓に視線を移した。
「……うん。……怖いし嫌いだし苦手」
「なんだそれ」
「ね、寄り道するの?
昨日、どっか行こうって言ってたよね」
一言前とはあまりに違う声のトーンと笑顔に、奈緒を振り返る。
奈緒がわざと話題をそらした事に気付いて……。
でも奈緒の必死の笑顔に聞こうとは思わなかった。