イジワルな恋人
「あー……、そんな事言ってたっけ。どこ行きたい?」
逸れた会話になのか、寄り道になのか、奈緒が明るく笑う。
普段なら女になんか決して聞かない希望。
自分の行きたい場所に付き合わせて現地解散が当たり前だった。
……まぁ、こいつとは付き合ってるフリしなきゃだし。付き合ってればこれが普通だろうし。
明らかにいつもとは違う自分に、納得できるような言い訳を頭ん中で繰り返す。
「駅ビルがリニューアルオープンしたでしょ?
あたしまだ行ってないんだ。……ダメかな?」
不安そうな少し上目使いの視線が向けられて、黙り込む。
……普通の男なら、絶対に拒否できねぇだろうな。
「……北村、駅の近くに止めろ」
「ありがと。じゃあ家に電話しなくちゃ」
奈緒から目を逸らして北村に言うと、奈緒は笑顔を向けてから鞄の中からケータイを取り出した。