イジワルな恋人


「なによ……被害者ぶるのもいい加減にしてよっ!」


突然の大声に……、

あたしはドアノブに伸ばそうとした手を反射的に止めた。


振り向くと、あたしを睨みつける佐伯さんの姿があった。

その目には……、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。


「……なに?」


戸惑いながらも聞き返すと、佐伯さんはあたしを睨んだまま答える。


「あの事件で……アンタは被害者だからってみんなに同情されて……っ、

あたしはっ、加害者の親族だからって後ろ指指されてきたのよ?!」

「……っ」


佐伯さんの言葉に、声が出なかった。


事件後、確かにいろんな人に同情はされてた。

決して心地いいものではなかったけど……。


立ち上がった佐伯さんは、詰め寄ると、あたしの髪をつかんだ。


「……佐伯さっ……痛っ」

「大体アンタが引き起こしたような事件じゃないっ! 

みんなに愛想振りまいてるからあんな事になったのよ……っ! 

アンタのせいで……、あたしがどんだけつらい思いしてきたか分かってるっ?!」


いつもの甘えたような口調とは違う佐伯さんの声が、部屋に響く。


佐伯さんは取り乱していて……少し息を切らせて顔を赤らめていた。


いつもと違う佐伯さんを、キっと睨みつける。


< 406 / 459 >

この作品をシェア

pagetop