イジワルな恋人


「何見てんのよっ! 

アンタも……、アンタも、あの時死ねばよかっ……きゃあっ!」

「……っ?!」


突然、従業員室のドアが開いて……入ってきた店長が佐伯さんを叩いた。


「……美沙、いい加減にしろよ」


……『美沙』?

あたしは入ってきた店長の背中を見つめて顔をしかめた。

……なんで呼び捨てなの? 

二人の間に、何かあるの……?


『なんで店長クビにしないんだろう』

頭に、ずっと不思議だった事が浮かび上がる。


「水谷……ごめんな、嫌な思いさせて」


振り向いた店長に、咄嗟に首を横に振った。


「あの事件は水谷のせいなんかじゃないよ。犯人の身勝手な犯行だ」


店長がそう話しても、佐伯さんは黙ったままうつむいていた。

そんな佐伯さんに違和感を感じて……あたしはその様子を見ていた。


いつもなら絶対に突っかかって、店長の言葉を否定するハズの佐伯さんが、床を見つめたまま動かない。


「美沙とは親戚なんだ。……こいつも昔はこんな奴じゃなかったんだけど……。

川口が事件起こしてから、『人殺し』って学校で虐められたりして……。それから変わっちゃって……」


店長の言葉に驚きながら、佐伯さんを見続けた。

そして……、佐伯さんの肩が少し震えていることに気付いた。



< 407 / 459 >

この作品をシェア

pagetop