イジワルな恋人
「もう……同情なんかいらないっ!!
智也の……智也だけの同情は欲しくない……っ!!」
うつむいて泣く佐伯さんに、店長がゆっくりと手を伸ばす。
そして、もう一度優しく包み込んだ。
川は変わることなく穏やかな音を響かせていて、少し緊張している気持ちを落ち着かせていく。
「同情じゃないよ」
店長の言葉に、佐伯さんの涙が止まった。
「……え?」
「同情なら……、こんな熱くならないだろ」
呆然とする佐伯さんを離すと、店長があたしに申し訳なさそうに笑いかけた。
「水谷、悪かったな。迷惑かけて、本当に申し訳なく思ってる。……ケガは?」
突然向けられた笑顔に、戸惑って答える。
「あ、いえ! むしろ佐伯さんの手が……あたしが蹴っちゃったんで……」
少し気まずくなって言うと、店長が笑った。
「帰ったら看てみるよ。……とりあえず連れて帰るな。
後で家に行くから、その時きちんと謝らせてくれな」
佐伯さんを抱えて歩き出す店長に、なんとか笑顔を作って見送る。