イジワルな恋人


「もう……同情なんかいらないっ!! 

智也の……智也だけの同情は欲しくない……っ!!」


うつむいて泣く佐伯さんに、店長がゆっくりと手を伸ばす。

そして、もう一度優しく包み込んだ。


川は変わることなく穏やかな音を響かせていて、少し緊張している気持ちを落ち着かせていく。


「同情じゃないよ」


店長の言葉に、佐伯さんの涙が止まった。


「……え?」

「同情なら……、こんな熱くならないだろ」


呆然とする佐伯さんを離すと、店長があたしに申し訳なさそうに笑いかけた。


「水谷、悪かったな。迷惑かけて、本当に申し訳なく思ってる。……ケガは?」


突然向けられた笑顔に、戸惑って答える。


「あ、いえ! むしろ佐伯さんの手が……あたしが蹴っちゃったんで……」


少し気まずくなって言うと、店長が笑った。


「帰ったら看てみるよ。……とりあえず連れて帰るな。

後で家に行くから、その時きちんと謝らせてくれな」


佐伯さんを抱えて歩き出す店長に、なんとか笑顔を作って見送る。



< 447 / 459 >

この作品をシェア

pagetop