その手に触れたくて
「そう…だったんだ…」
“気になる人は居るけどね”
ある意味これが夏美の口癖だった。
夏美の恋愛経験なんて、あたしに比べたら比べ物にならないくらい経験豊富で…。
でも、浮気するから別れた…とか、すれ違い、価値観の違い。別れる理由は様々だった。
あたしには凄く凄く不思議だった。
なんで気になる人が居るのにその人と付き合うんじゃなくて、違う人と付き合うんだろうって…
振り向いてくれないから…って言ってたのは聞いた事があった。
まさか颯ちゃんが夏美の気になる人だったなんて…。って気付いた今、何となく他の人と付き合ってた夏美の気持ちが少しだけ分かった気がした。
少しだけ――…
「颯ちゃんってさ、実は遊び人なんだよね」
「……」
夏美は灰皿を持って、短くなったタバコを磨り潰しながら呆れた様に小さく頬笑み口を開く。
「気づいた頃は颯ちゃんが高校に入った時くらいだったんだ。でも颯ちゃんは女遊びが激しくってさ…」
「……」
「何ですんの?って聞いたら、理由はない。ってさ…笑っちゃうよね。好きになる女が見つかんねぇしって…」
「……」
そう言って夏美はため息交じりに言葉を小さく吐きだした。