その手に触れたくて

「冷やさなきゃ!!」


先輩が姿を消した後、相沢さんは焦る様に声を出しあたしの腕を掴んだまま足を進めて行く。


「大丈夫だから」

「大丈夫な訳ないじゃん!!早く来て!!」


そう言って相沢さんはあたしの手を引っ張り勢いよく近くにあった水道まで駆け寄った。

水道まで来ると相沢さんは蛇口を急いで開き、あたしの手に水を浴びせる。


先輩に押しあてられたタバコの跡が痛々しく小さな丸の形になって現れていた。

それを見て悔しいと思った。

何であたしが…あたしが悪いの?

なんでっ…


余りにも悔しくなり、俯いたままあたしは水を浴びながら左手に拳を作った。


「ちょっと待ってて」


相沢さんはあたしの手を離して言う。


「え?」

「救急箱持って来るから」

「え、いや…そんな大袈裟だよ。大丈夫だから」


うっすら微笑んで言ったにも関わらず、相沢は激しく首を振った。


「ダメだよ。そのついでに隼人呼んで来るから」

「……ッ」


隼人の名前を聞いて、一瞬言葉が出なかった。

隼人には何も言いたくないし、何も見せたくない。


隼人を困らせたりしたくない…


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